小町ちゃんの構文基礎


どこから・どこへ


ごはんちゃん:「姐さん、お肩をお揉みしやす」
小町ちゃん :「なによそれ」
ごはんちゃん:「いや、ここらでギャグの一つも言っておかないと、今までとバランスが悪いかなって思って」
小町ちゃん :「余計な心配しなくたっていいの。それじゃ次行くわよ、次」
ごはんちゃん:「うへぇ、まだあるんですかい、そりゃあんまりだ、姐さん」
小町ちゃん :「何、ギャグを引きずってるのよ。ホラホラ、作家への道は長く険しいのよ」

 さぁてお次は何かってぇと……あらイヤだ、
ごはんちゃんがうつっちゃった。
 こほん。
 ごはんちゃんの文章で大きなマイナスなと
ころは、描写(説明)されている状況が明白
ではないというところだわね。

 きれいな、花が、好きなので、河原で、つ
んできた。心が、あらわれるみたい。
 右手で、持っていた、赤い花を、左手に、
持ち替えて、家に、帰ってきた。

 個々の言葉の意味そのものは、通じるのよ
ね。でも「状況」が分からない。
 前の二行で、お花を『つんできた』のよね。
『つんできた』というからには、この人は、
河原でお花を『つんで』、そして戻って『き
た』と読めるのよね、言葉からすると。
 でも後ろの二行で『家に帰ってきた』とあ
るわ。だから、この時にようやく『家に帰っ
てきた』ということになるわ。
 すると、前の二行でこの人は、河原から
『どこに』戻ってきたのかしら。言葉の意味
を追いかけていくと、この人は『どこか』
――仮にA地点としましょう。家から河原に
花をつみに行って、そこからA地点に戻って
『きた』。これが前の二行↓。

 きれいな、花が、好きなので、河原で、つ
んできた。心が、あらわれるみたい。

 そしてA地点から改めて、花を持ち替えな
がら家まで『帰ってきた』のね。これが後ろ
の二行↓。

 右手で、持っていた、赤い花を、左手に、
持ち替えて、家に、帰ってきた。


 |前の二行|
 河原----->A------->家
      |後の二行|

――>文章中の時間の流れ――>

 前後のそれぞれの文章が示す意味をそのま
まとらえると、こんな風に、どうしても河原
と家との間に、もう一カ所場所があることに
なってしまうの。分かるかしら? つまり、
前の文章と後ろの文章が、直接繋がってくれ
ていないのよ。間に、『書かれていないこと』
が挟まってしまっているのよね。A地点とい
う場所がね。
 けれど、文章にはそこがどこか、なんて書
いてないでしょう。
 だから、なんだか読んでいて落ち着かない
のよね。「それはどこなの?」って思っちゃ
うわ。
 たぶんごはんちゃんとしては、A地点のこ
となんて書いたつもりはないと思うの。家か
ら河原に行って、河原からまっすぐ家に帰っ
てきたんだって。
 だとしたら、こういう風にA地点が存在す
るらしいって読めるような文章を書くのは、
良くないわね。まっすぐ家に帰ったんだって
すらっと分かる文章を書くように心がけない
とね。

小町ちゃん :「あらごはんちゃん、どうしたの、黙り込んじゃって」
ごはんちゃん:「……うううう、頭のごはんが乾いてきて何も考えられないよう」
小町ちゃん :「大変、それじゃお湯をかけてあげる」
ごはんちゃん:「わあ、お粥になっちゃう。やめてやめて」
小町ちゃん :「乾いちゃうくらい難しかった? ごめんね。初めて小説を書いたごはんちゃんには、難しいし厳しいことだとは思ったんだけど」
ごはんちゃん:「そう思ったんなら黙っててくれたっていいじゃないかよう」
小町ちゃん :「ごめんねぇ。でも、こういうことを知っていると知らないとでは、この後の上達が違うのよ。知らないと、『この文章はどうして意味が通じにくいんだろう、読みにくいんだろう』って思った時、答えが分からないかもしれないじゃない? 知っていれば、『ああ、ここで文章が繋がっていないんだ、だから読みにくいんだ』って分かるでしょう。それが分からないと、どこをどう直せばいいのかだって、気付けないものね」
ごはんちゃん:「そりゃまあ、そうですけどね」
小町ちゃん :「ふてくされないでよ、ごはんちゃん。後で頭のごはんを炊き立てと入れ替えてあげるから」
ごはんちゃん:「もちろんお米は“あきたこまち”だよね」
小町ちゃん :「……とにかく、細かいことだけど、こういう風に『文章の繋がり』ってことを考えるのは、読みやすい文章を書くために必要なことだと思うの。今すぐに出来るようになれ、なんて言わないけど、いずれ出来るように、憶えておいてね」
ごはんちゃん:「へい、姐さんがそうおっしゃるんなら不肖このごはん、きっと憶えていてごらんにいれやす」
小町ちゃん :「大昔のヤクザ映画でも見たのかしら、この子」
ごはんちゃん:「A地点ってのが映画館だったんだね、たぶん」
小町ちゃん :「書いた本人が『たぶん』って言っちゃダメでしょ」
ごはんちゃん:「ぎゃふん」
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