作家でごはん!鍛練場
渡辺沙羅

初夏

初夏

渡辺沙羅


今、初夏は季節の中で一番好きだ。だから早起きになる。
この朝の具合。静かで適度に温かい。それが好きだ。散歩に出てみる。靴はスポーツシューズ。桜が終わって花木が咲き誇ってこの辺りの宝になっている。小笠原さんちの大柄のツツジは見事に咲き誇って芳香を放っている。初夏の香り。もうすぐ家の沈丁花が夏を告げるだろう。とにかく初夏はこの家々の宝なのだから。
この辺りはほとんど住宅街になってしまった。私が前の家を建てたころは畠が町を覆っていたが次第に宅地になって、一部に借り農園のあるばかりだ。
 散歩は楽しい。暑くも寒くもない。何しろまだ4時ごろなのだ。でもすぐに日が昇ると今日のような天気なら暑くなる。異常気象は本当に異常だ。今年は4月を感じない。すぐに3月から5月の気候に移っていった。
 私は金の延べ棒を持っている。それでこれからさまよう公園が楽しみだ。金を公園の茂みに隠してあるのだ。さて見つけた人の人生を左右する金の延べ棒。どうだと雑草の茂みに注目する。このスリルが楽しみなのだ。周りに人がいないことを確認して茂みをかき分けてみると、有る。面白くもない。私は落    胆した。しかし明日がある。茂みの少し薄いところに金を移動して、発見した人の人生の逆回りを考えたいのだ。私は自分のものだとは見破られないようにしている。
さて少し歩くと中華料理屋がある。雨除けのある入口にツバメの巣があって、なんだろう蛇の青大将が雛を狙っているのだ。雛がやられる!と、蛇は落下した。足元が不安定だったのだろう。蛇の空腹と雛の命。弱肉強食とはいえ蛇の落下は人を安心させる。蛇が健在でうねうねと逃げていく様は誰もが同情するわけではない。
さて3つ目の楽しみは私の菜園で採れた収穫物の無人販売だ。昨日、採れた野菜、ジャガイモ、パプリカ、ナス、などを無人で箱に入れ売っている一個どれでも50円、公園の端に置いた。空き缶にお金を入れるシステム。何と完売。お金を勘定すると少ない、そんな所だろう。でも350円は良かった。
金の延べ棒と蛇と無人販売。面白かった。のどが渇いたので自動販売機でコーラを飲んだ。
今日の散歩は正解。今度は何をしようか。だから初夏は面白い。

初夏

執筆の狙い

作者 渡辺沙羅
114-134-212-157.fnnr.j-cnet.jp

朝の散歩で芽が出ました。
朝の光と闇の部分を書いてみました。
春から初夏への季節の移ろい。
自然に生きること。
書いてて楽しくなる。

コメント

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>渡辺沙羅さん

読ませていただきました。
はじめはのどかな初夏の情景を書いた作品かと思っていたのですが、
金の延べ棒が出てきてびっくりしました。

>金の延べ棒と蛇と無人販売。面白かった。のどが渇いたので自動販売機でコーラを飲んだ。
>今日の散歩は正解。今度は何をしようか。だから初夏は面白い。

初夏がおもしろいというより、この主人公がおもしろすぎます。

>人の人生を左右する金の延べ棒
>私の菜園で採れた収穫物の無人販売

超高額な金の延べ棒と、野菜の売上金350円との対比もおもしろかったです。

>今日の散歩は正解。今度は何をしようか。だから初夏は面白い。

私はこういう作品を書けない、というか思いつきもしないので、
今日の読書は正解、といったところでしょうか。だから「作家でごはん」は面白い。
読ませていただきありがとうございました。

夜の雨
ai194162.d.west.v6connect.net

「初夏」読みました。

これは素晴らしい、良い作品を読ませていただきました。

情景が描かれていて雰囲気が伝わってきます。
「温かい。香り。4時ごろなのだ。」これらに背景を書き込んでいるのでその場にいるような感じがします。
主人公がどんな所に住んでいて生活を「していたのか」「しているのか」ということが御作の文章から伝わってくる。
>小笠原さんちの大柄のツツジは見事に咲き誇って芳香を放っている。初夏の香り。もうすぐ家の沈丁花が夏を告げるだろう。とにかく初夏はこの家々の宝なのだから。<
俳句が浮かびそうですね。
いや、短歌ですかね。背景の人間や生き物たちの生活の部分とか自然の天然も見えてきます。

「金の延べ棒」のエピソードは笑いがありますね。それとミステリーっぽい不思議感も。
主人公が隠し場所をチェックしてまた、別の場所に移すというのが秘密めいていて面白い。

ツバメの巣のなかの雛を狙う蛇の青大将が落ちる話などもほほえましいです。いかにも主人公が住んでいる生活圏が平和だという事が伝わってきます。
つまり青大将がのらりくらりとしている田舎の風景やら家などが目に浮かぶ。

話の締めが「私の菜園で採れた収穫物の無人販売だ。」ということでジャガイモ、パプリカ、ナスなどを箱に入れて缶をおいて一個50円で販売とか。
完売するが商品の数と勘定が合わないとか。
お金が少ない。
「でも350円は良かった。」このオチはよいですね、主人公のおおらかさが伝わります。
このおおらかさは御作に描かれた世界観の風景から育つのだろうと思いますが。
ところで野菜の販売とお金が合わない原因ですが青大将が雛を食べ損なったので、野菜を持っていったのでは、そんなことを考えると楽しいですが(笑)。

冒頭の「今年は4月を感じない。」これもうまいですね書き方が。
>すぐに3月から5月の気候に移っていった。<
誰もが感じるところでは。感じても、これが書けません凡人には。

御作、ほっこりとしました。


お疲れさまでした。

しまるこ
133.106.208.240

タイムリーで共感しますね。

私もこの作品は好きです。

>今年は4月を感じない。すぐに3月から5月の気候に移っていった。

ねー。本当に。

偏差値45
KD106180000251.au-net.ne.jp

>金の延べ棒

ちょっと行動の意味が分からなかったですね。
余程のお金持ちならば別でしょうけどね。
たとえ、それを僕が発見しても警察に届けるので
あまりメリットがない気がしますね。
換金なんて発想はないのですよ。
むしろ、現金が落ちている方がドキドキワクワクでしょうね。

>ツバメの巣

隣家の建物の軒天で見かけ事がありますね。
その下にフンが落ちているのですぐ気が付く。
でも、先だってみた時には、親鳥が巣の中で死んでいましたね。
それでこそが自然でいいかも、なんて思ったりして。

>無人販売。

そういう人はいるのでしょうけど。
ビジネスというよりも趣味なんでしょうね。
たとえ無料でも、欲しくはないけど。

>今度は何をしようか。だから初夏は面白い。

一種のあそびでしょうけど。
公園に小さい池がありまして、そこに金魚を放流してみようかと
考えたことはありますね。
しかしその数年後、行政上の理由で水が無くなっていましたね。・
やっぱり、金魚の放流はしなくて良かった。
……そんな行動も後悔も反省もない話が好きだったり。

総じてストーリー性は感じませんが、あそび心という点では共感はありますね。

西山鷹志
softbank126077101161.bbtec.net

拝読いたしました。

サラさんの作品にしては新しい分野ですね。
丁度今の季節にあって、ああもう夏になるんだなと感じました。

>菜園で採れた収穫物の無人販売

東京都下の清瀬市と言う所がありますが
ここでも良く無人販売が見られます。
普通100円が多いですが50円とは安い(笑)
まさか金の延べ棒が出てくるとは(笑)
遊び心があって楽しめました。

渡辺沙羅
114-134-212-157.fnnr.j-cnet.jp

皆さん感想ありがとうございます。
考え方には多様性があって、
色々なんですが、この作品は雰囲気
だけで書いています。

つまり全編に題名である、「初夏」
が感じさせる後世になっています。
感想で、正反対の部分がありますが、
それが意図とすればそうでしょう。

絵本にしたら面白いかもしれません。
ショートショートも書けるのがこのサイトの良さで、
このように思いつきをダイレクトにぶつける
それが面白い。

感想ありがとうございます。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

初夏の風景の描写から、金の延べ棒に移る、展開の意外さ。
更にそこから無人販売所の50円、100円の話題に戻る、そこにも意外さがあります。

自分はなんとなくお金で物事を決める風潮は苦手ですけど。
その中でも抜群に奇妙な金銭感覚と、そこから何か解脱したような穏やかな達観した価値観があり、上手にできた作品だと思います。
リアリティーが無さそうで意外とあるという、不思議な感触がしました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内